競馬の「ハミ」とは何?種類や役割から選び方までを幅広く調査!

時速60キロメートルを超える猛スピードで疾走するサラブレッド。体重500キログラムにも及ぶ巨大な動物を、わずか50キログラムほどの人間が自在に操ることができるのはなぜでしょうか。その秘密の鍵を握っているのが、馬の口の中に装着される小さな金属、「ハミ」です。競馬中継のパドックやレース解説で「ハミを取る」「ハミ受けが良い」といった言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。しかし、具体的にハミがどのような構造をしていて、どのような原理で馬を制御しているのか、そしてなぜそこまで重要視されるのかを詳細に理解している方は、意外と少ないかもしれません。

ハミは、騎手と馬をつなぐ唯一の直接的な接点であり、いわば「通信回線」のような役割を果たしています。この小さな金具ひとつで、馬の走る気力を引き出すこともできれば、逆に走る気を削いでしまうこともあります。また、馬の癖や性格に合わせて多種多様なハミが使い分けられており、その選択がレースの勝敗を分けることも珍しくありません。

この記事では、競馬における「ハミ」の基礎知識から、そのメカニズム、多様な種類とそれぞれの効果、そして専門用語の意味まで、徹底的に調査し解説します。一見すると地味な馬具ですが、そこには先人たちの知恵と、馬という動物の生理学に基づいた深い理論が詰まっています。ハミを知ることで、騎手の騎乗技術や厩舎の工夫がより鮮明に見えてくるはずです。競馬の奥深さを知るための重要なピース、「ハミ」の世界へご案内します。

競馬における「ハミ」とは?基本構造と重要な役割を解説

まずはじめに、ハミの基本的な定義と、競走馬にとってそれがどのような意味を持つのかを掘り下げていきます。単なるブレーキやハンドルの役割だけでなく、馬の精神状態や走行フォームにまで影響を与えるハミの重要性を、解剖学的な視点も含めて解説します。

ハミの定義と装着場所:馬の口の中に収まる金属の正体

「ハミ(銜)」とは、馬の口の中に含ませる棒状の金具のことです。頭絡(とうらく)と呼ばれる革製のバンドで馬の頭部に固定され、ハミの両端には手綱(たづな)が繋がれています。騎手が手綱を操作すると、その力がハミに伝わり、馬の口の中に物理的な刺激を与える仕組みになっています。

ここで疑問に思うのが、「金属の棒を口に入れて痛くないのか?」「なぜ噛み砕いてしまわないのか?」という点ではないでしょうか。実は、馬の口の中には、前歯(切歯)と奥歯(臼歯)の間に、歯が全く生えていないスペースが存在します。この部分を専門用語で「歯槽間縁(しそうかんえん)」と呼びます。ハミはまさにこの歯槽間縁に収まるように装着されます。

歯がない部分に置かれているため、馬はハミを噛み砕くことはありません(意図的に奥歯で噛もうとする癖のある馬もいますが、基本的には歯には当たりません)。ハミは、馬の舌の上、そして歯茎(下顎の骨の上を覆う粘膜)の上に位置します。騎手が手綱を引くと、ハミがテコの原理や直接的な圧力によって、舌、歯茎、そして口角(唇の端)を圧迫します。馬はこの口の中の感触や圧力の変化を感じ取り、騎手の意図を理解するのです。この非常に敏感な「歯槽間縁」というスペースがあったからこそ、人類は馬に乗ってコントロールすることができるようになったと言っても過言ではありません。

騎手と馬をつなぐ通信機:手綱からの指示が伝わる仕組み

ハミの役割を自動車に例えると、「ハンドル」と「ブレーキ」の両方の機能を兼ね備えていると言えます。しかし、それ以上に重要なのが「コミュニケーションツール」としての役割です。騎手は手綱を通じてハミを操作し、馬に対して実に繊細なメッセージを送っています。

例えば、右の手綱を引けば、右側のハミが口角を圧迫し、馬は顔を右に向けます。これがハンドルの役割です。また、両方の手綱を同時に引けば、ハミが歯茎と舌全体を圧迫し、「止まれ」あるいは「減速せよ」という合図になります。これがブレーキの役割です。ここまでは直感的に理解しやすいでしょう。

しかし、競馬におけるハミの役割はもっと高度です。騎手は手綱を引くだけでなく、緩めたり、細かく譲ったり、あるいは一定のテンション(張り)を保ったりすることで、馬に「今はリラックスしていい」「これから加速するぞ」「脚を溜めろ」といった指示を送ります。これを「コンタクト」と呼びます。

熟練した騎手の拳(こぶし)は、まるで馬の口と会話しているかのように柔らかく動きます。馬が頭を動かしてリズムを取ろうとする時、騎手の拳もそれに合わせて動き、ハミが口の中で暴れて不快感を与えないようにします。逆に、馬が勝手に進もうとした時は、瞬時にハミで壁を作り、制御します。このように、ハミは単に物理的な力で馬をねじ伏せる道具ではなく、騎手の意思を馬に伝え、馬の反応を騎手が感じ取るための、高感度なセンサーであり通信機なのです。

「ハミ受け」とは何か:コンタクトの質が走りを変える

競馬の解説で頻繁に使われる「ハミ受け」という言葉。これは、馬がハミに対してどのような反応を示しているか、その状態を指す用語です。「ハミ受けが良い」状態とは、馬がハミの存在を素直に受け入れ、騎手の手綱からのコンタクトに対して反抗せず、かつリラックスして集中している状態を指します。

理想的なハミ受けの状態にある馬は、顎(あご)を軽く引き、首が適度なアーチを描きます。この姿勢になると、背中の筋肉が使いやすくなり、後肢(後ろ足)の踏み込みが深くなります。つまり、ハミ受けが良いということは、単におとなしいということではなく、身体能力を最大限に発揮できるフォームになっていることを意味するのです。

逆に「ハミ受けが悪い」状態にはいくつかのパターンがあります。

一つは、ハミに対して反発し、頭を上げたり振ったりして嫌がるケースです。これでは騎手の指示が伝わらず、エネルギーをロスしてしまいます。

もう一つは、「ハミにぶら下がる」や「もたれる」と呼ばれる状態です。馬が自分でバランスを取ろうとせず、ハミ(つまり騎手の手)に体重を預けてしまうことです。こうなると騎手は腕に500キロの馬の重みを感じることになり、制御が非常に困難になります。また、馬自身も前のめりのバランスになり、末脚を発揮できなくなります。

「ハミをさらわれる」という表現もあります。これは馬が急に頭を下げたり伸ばしたりして、騎手の手綱を引っ張り込んでしまうことです。こうなると騎手は制御不能になり、暴走や落馬の危険性が高まります。

このように、ハミ受けの状態は、その馬がレースで能力を発揮できるかどうかを占う上で、極めて重要なバロメーターとなるのです。

「ハミを噛む」「ハミを取る」:状態を表す専門用語の意味

競馬新聞や関係者のコメントには、ハミに関する独特の表現が多く登場します。これらの意味を正確に理解することで、馬の状態をより深く把握することができます。

「ハミを噛む(かむ)」

一般的に、馬が気負って力んでいる状態、あるいは前進気勢が強くなっている状態を指します。レース中に「ガツンとハミを噛んでしまった」という場合は、馬がエキサイトして騎手の制御よりも前に出ようとしてしまい、スタミナを無駄に消耗してしまったことを意味するネガティブな文脈で使われることが多いです。しかし、勝負所(直線の入り口など)で「グッとハミを噛んだ」という場合は、馬自身が「これから走るぞ」と気合を入れたことを意味し、ポジティブな意味になります。文脈によって良し悪しが変わる言葉です。

「ハミを取る」

基本的には「ハミを噛む」と似ていますが、よりポジティブなニュアンスで使われることが多いです。騎手の指示に従って、馬が自らコンタクトを求めて前進しようとする姿勢を指します。調教コメントで「しっかりハミを取って走れていた」というのは、集中力があり、体調が良い証拠です。

「ハミを吐く」

レースの終盤などで、馬が疲れて走る気力を失った状態を指します。それまで騎手の手綱を通じて感じていた心地よい抵抗感(手応え)がフッと消え、馬がハミを支えきれなくなる感覚です。「4コーナーでハミを吐いてしまった」というのは、スタミナ切れや戦意喪失を意味します。

「ハミが抜ける」

これも状況によって意味が異なります。レース中に意図的に「ハミを抜く」場合は、道中で馬をリラックスさせ、息を入れさせる高等テクニックを指します。これができると、最後の直線で爆発的な末脚を使うことができます。一方で、勝手にハミが抜けてしまうのは、集中力が途切れたことを意味します。

このように、ハミにまつわる言葉は、馬の心理状態(やる気、興奮、疲労、集中)をダイレクトに表現しています。騎手のレース後のコメントで「道中、ハミを噛んでしまって…」と言っていれば、「ああ、馬が興奮してスタミナを使い果たしてしまったんだな」と敗因を分析することができるのです。

競馬のハミとは実は奥深い!種類や形状による効果を調査

ハミには実に多くの種類が存在します。基本的な形状のものから、矯正を目的とした特殊な形状のものまで、その数は数十種類にも及びます。なぜこれほど多くの種類が必要なのでしょうか。それは、馬によって口の感度、顎の強さ、性格、癖が千差万別だからです。調教師や厩務員は、担当する馬に最適なハミを見つけるために試行錯誤を繰り返します。ここでは、代表的なハミの種類と、それぞれの特徴や効果について深掘りしていきます。

水勒(すいろく)ハミ:最も一般的でマイルドな操作性

競馬で最も一般的に使用されるのが「水勒(すいろく)」と呼ばれるタイプのハミです。英語では「スナフル(Snaffle)」と呼ばれます。中央に「ジョイント(関節)」があり、手綱を引くと「く」の字に折れ曲がる構造をしています。

この水勒ハミの最大の特徴は、作用が比較的マイルドであることです。口の中で適度に動き、舌や歯茎への当たりが柔らかいため、馬に過度な苦痛やプレッシャーを与えにくい設計になっています。そのため、新馬や素直な性格の馬、あるいは口の柔らかい(感度が鋭い)馬には、まずこの水勒ハミが使用されます。

水勒ハミの中にも、さらに細かい分類があります。

一つは、ハミ身(口に入る部分)の太さです。一般的に、太いハミほど接地面積が広くなるため当たりが柔らかく、細いハミほど圧力が集中するため当たりが鋭く(痛く)なります。口向きの悪い馬や制御が難しい馬には、あえて細めのハミを使って効き目を強くすることもあります。

また、材質の違いもあります。ステンレス製が一般的ですが、銅を配合したものは馬が好む味やイオン作用があり、唾液の分泌を促してハミ受けを良くする効果があると言われています。最近では、当たりをさらに柔らかくするために、ゴムやプラスチック、ウレタン素材でコーティングされたハミも使用されています。

リングハミとエッグバット:口角への当たりと制御力の違い

水勒ハミは、ハミ身の両端にある「ハミ環(はみかん)」と呼ばれるリングの形状によって、さらに「リングハミ」と「エッグバット」などに分類されます。この違いは見た目だけでなく、機能面でも大きな差を生みます。

リングハミ(ルーズリングスナフル)

ハミ身とハミ環が固定されておらず、リングの中でハミ身が自由に回転する構造になっています。

  • 特徴: ハミの位置が口の中で固定されにくく、遊び(ゆとり)があります。
  • メリット: 馬がハミを舌で動かして遊ぶことができ、リラックス効果が高いです。また、騎手の手の動きがダイレクトに伝わりすぎないため、当たりが柔らかくなります。
  • デメリット: 口の端を挟んでしまうリスクがあります(これを防ぐために「ビットガード」というゴム製の円盤を併用することが多いです)。

エッグバット(たまご型ハミ)

ハミ身とハミ環の接続部分が卵のような楕円形をしており、ジョイント部分が滑らかに一体化しています。

  • 特徴: ハミ身がリングの中で回転せず、固定されています。
  • メリット: ハミが口の中で安定しやすく、横にズレにくいです。また、口角を挟む心配がほとんどありません。
  • デメリット: リングハミに比べて「遊び」が少ないため、馬がハミにもたれかかりやすくなる場合があります。

一般的に、口の中でハミを遊ばせてリラックスさせたい場合はリングハミ、ハミの位置を安定させてしっかりコンタクトを取りたい場合はエッグバットが選ばれる傾向にあります。

矯正用の特殊なハミ:トライアビットやDハミの役割

競走馬の中には、非常に気性が荒く制御が難しい馬や、片方の口角だけに圧力がかかると逃げようとする(ヨレる)癖のある馬がいます。そのような馬のために、より制御力の強い「矯正用ハミ」が使用されます。

トライアビット(リングビット)

通常のリングハミに似ていますが、ハミ環にさらに大きなリングが通っており、それが顎の下を通る構造や、ハミ身自体がリング状になっているものなどを指します(形状は多岐にわたりますが、一般的に制御力が高いものを指すことが多いです。特に競馬で有名なのは、ハミ環の中にさらに小さなリングがあり、それが舌を押さえつける効果を持つタイプや、大きなリングが口全体を覆うタイプです)。

特に「クリスタルビット」や「リングビット」と呼ばれるものは、ハミ身とは別に大きなリングが口を取り囲むような形状をしており、馬が横を向こうとしたり、ハミを越して舌を出そうとしたりするのを防ぐ効果があります。右にヨレる癖がある馬などに効果的です。

Dハミ(Dビット)

ハミ環の形状がアルファベットの「D」の形をしています。

  • 特徴: 直線部分が馬の口角に当たるため、ハミが口の中で横滑りするのを強力に防ぎます。
  • 効果: 左右への方向転換の指示が明確に伝わります。また、コーナーで外に膨らむ癖がある馬に対して、外側のハミが壁となって顔を内側に向けさせる効果が高いです。

3連ハミ(ドクターブリストルなど)

通常の水勒は2本のパーツが中央で連結されていますが、3連ハミは中央に短いプレートがあり、3つのパーツで構成されています。

  • 効果: 2連ハミのように中央が尖って上顎(口蓋)を突くことがなく、舌全体に均一に圧力がかかります。一見マイルドに見えますが、中央のプレートの角度によっては、舌に鋭い圧力をかけて制御力を高めるものもあります。

ハミ吊りとビットガード:ハミの効果を補助するアイテム

ハミそのものだけでなく、ハミの効果を補助したり、トラブルを防いだりするための周辺アイテムも重要です。

ビットガード(ハミ当て)

ハミの両端(口角部分)に装着する、ゴム製の円盤状のパーツです。

  • 役割: リングハミなどが口角の皮膚を挟んで傷つけるのを防ぐのが主な目的です。また、ハミが口の中で左右にズレすぎるのを防ぐストッパーの役割も果たします。色とりどりのビットガードがあり、厩舎カラーや勝負服に合わせてコーディネートされることもあります。

ハミ吊り(はみつり)

頭絡の頬革(ほおがわ)とは別に、ハミを支えるための補助的な革紐やゴム紐のことです。

  • 役割: ハミが口の中で下がりすぎないように位置を保持したり、舌をハミの上に出してしまう(舌を越す)癖(舌鼓を打つように遊んだり、制御不能になったりする原因)を防ぐために使用されます。ハミを適切な高い位置にキープすることで、馬が舌を越しにくくなります。

舌縛り(したしばり)

これは道具というより処置ですが、ハミと一緒に馬の舌を包帯や専用のバンドで下顎に縛り付けることです。

  • 役割: 舌をハミの上に出す「舌越し」を物理的に防ぎます。また、舌が喉の奥に巻き込まれて気道を塞ぐ(喉鳴りのような症状を起こす)のを防ぐ効果もあります。パドックで馬の口元から白い布のようなものが見えたら、それは舌縛りをしている証拠です。

これらの工夫はすべて、「いかにして馬に集中して走ってもらうか」「いかにして全能力を発揮させるか」という執念の表れです。ある馬はリングハミでリラックスさせることで勝利し、別の馬はDハミに変えてヨレる癖を矯正したことで勝利する。ハミの選択は、まさに調教師とスタッフの腕の見せ所なのです。

競馬のハミとは何かについてのまとめ

競馬のハミとは何かについてのまとめ

今回は競馬のハミとは何かについてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。

・ハミは馬の口の中に装着する棒状の金具であり騎手と馬をつなぐ最重要の通信手段である

・馬の口には歯が生えていない「歯槽間縁」というスペースがありハミはそこに収まっている

・ハミはブレーキやハンドルの機能だけでなく騎手の意思を伝えるコンタクトの役割を持つ

・「ハミ受けが良い」とは馬が騎手の指示を受け入れリラックスして集中している状態を指す

・「ハミを噛む」は気合が乗っている場合と力んでスタミナを消耗している場合の両方がある

・「ハミを吐く」は馬が疲労や戦意喪失により走る気力を失い手応えがなくなった状態である

・「ハミにぶら下がる」や「もたれる」は馬が騎手の手綱に体重を預けてしまう悪癖である

・最も一般的な「水勒ハミ」は中央に関節があり当たりが柔らかく操作性がマイルドである

・「リングハミ」はハミ環が回転するため遊びがあり馬をリラックスさせる効果が高い

・「エッグバット」は接続部が固定されておりハミが口の中で安定し口角を挟むリスクが低い

・「Dハミ」はD字型のリングが口角を押さえるため横へのズレを防ぎヨレる癖を矯正する

・制御困難な馬には「トライアビット」などの特殊な矯正用ハミが使用されることがある

・ハミの太さや素材(ステンレス、銅、ゴムなど)によっても馬への刺激や伝わり方が変わる

・「ビットガード」は口角を保護するゴム製の円盤でありハミのズレ防止にも役立つ

・ハミの選択は馬の性格や癖に合わせて行われそのマッチングがレース結果を左右する

以上、競馬におけるハミの基礎から応用までを幅広く調査・解説しました。

たった一つの小さな金具ですが、そこには人馬のコミュニケーションのすべてが凝縮されています。

次回のレース観戦では、ぜひパドックや返し馬で、各馬がどんなハミを着けているか、そして騎手がどのようにコンタクトを取っているかに注目してみてください。

これまでとは違った、より深い競馬の景色が見えてくるはずです。